お墓の設計にもコンセプトが必要
2025.08.31 施工実績世の中にあるすべてのモノには過去に必ず「設計図」が存在しています。その保存場所は紙だったり電子媒体だったり、設計者の頭の中だったり・・・。それをもとに製品化され実物としてこの世に存在しているわけです。これはお墓とて同じ事。まずは設計図ありき です。
今回ご紹介するお墓は18㎡という広さ。よって明確なコンセプトと各部に緻密な設計が必要となります。


今回ご依頼いただいたお墓の工事は外柵(お墓の囲い)の全面刷新。施主様のご要望のメインはお墓の入り口の向き変え。あとはおまかせ・・・といった感じでした。
現況の外柵は昭和年間の大谷石製です。そして基礎コンクリートが敷設されています。その一部は地盤の沈下により目地が切れ、石が若干の傾きを起こしています。その原因はこの外柵を設置前にその部位において何かしらを埋蔵し、埋め戻した証拠。よって床堀時に確認が必要ですね・・・等、現況の構造をチェック。
そして今回私が一番気にしたのは、周囲の砂が非常に軽いため、その砂が風にのって巻き上げられ新たな墓域内に堆積してしまうだろう・・・という予測。この砂を「仕方ない」と諦めてもらうかまたは、「砂を掃き出す労力をいかに減らして差し上げるには・・・」と考えるか。
というわけで以下のような設計コンセプトとしました。
コンセプト①砂を掃き出すためのホウキが入る収納庫を備える。
コンセプト②来る大きな地震を念頭に、免振トップベース工法による基礎工事によって減災を図る
コンセプト③砂の吹きだまりをなるべく抑えた構造
コンセプト④費用を抑えつつも見栄えと強度の両立を図る
ざっくり言うとこんな感じです。これらを無視し、石頭石屋の設計だときっとこんな感じ。

でっかい門柱と置き灯籠、全面石貼りによる参拝部・・・石ごってり(笑)20年前の私の設計だとこうなっていたはず。なんか恥ずかしい思いですw
しかし今は令和の世の中。この20年に蓄えた知識と技術で設計すると・・・


・・・別物となります。実際に完成した様子を踏まえ、前記コンセプトを検証します。その前に、下の画像は完成写真の全景。入り口はこれまでと逆向きですね。これはお施主の御希望通りです。

以下、コンセプトの検証です。
コンセプト①砂を掃き出すためのホウキが入る収納庫を備える。

予想通り3方向囲まれると風で舞った砂が堆積しています。これを掃き出すためのホウキは画像中央の四角い部分の石扉(弊社特許製品)を開くと収納庫になっており、そこに隠されています。

ホウキのほかMyバケツとMyヒシャクも完備。ほか、花立てを洗うための柄付きのスポンジも。これでお参りの際のお掃除の省力化が図れますね。


と、ここまでが参拝部(下段)のお話。
また下段のタイル貼りはこれまで通りのコンセプト、「磨いた石は濡れるとよく滑る」の解消です。今回は入り口から距離があるのでなおさらです。
コンセプト②来る大きな地震を念頭に、免振トップベース工法による基礎工事によって減災を図る
これは当ホームページで以前からご紹介の通りです。

工程としては既存の石材および基礎コンクリートを撤去し更地に戻したら・・・

大穴を掘って砕石による地盤改良工事


知らないオジサンが見てられない!と手伝ってくれているの図w
独楽をセットし、鉄筋の配筋、生コン打設



この夏は酷暑ですので、水中養生(生コンは熱によって凝固しますが、その温度が外気により過剰となりがちなため、水を適宜打つことで硬化スピードを抑制し、クラックなどの発生を極力抑えます)を実施しています。
コンセプト③砂の吹きだまりをなるべく抑えた構造


上段の囲い角部はR状の風穴を開けることで砂の吹き溜まりを抑制できます。また雨水の排水もこの穴を利用しています。この地の砂は非常に軽いので、乾いてさえいればこの穴から砂は風に乗って自然に排出されています。自然の摂理を上手に利用できました。
コンセプト④費用を抑えつつも見栄えと強度の両立を図る

画像は外柵側面のものです。風穴を開けた囲い石の下部、その下の屈折して陰になっている部分は薄い板石を貼り付けています。その躯体は「型枠ブロック」

このブロックは通常のブロックと異なり、内部の空洞体積が大きいものです。この部分に生コンを充填することで壁とすることができます。それに際し鉄筋を配置していますが、主筋の縦鉄筋は基礎コンクリートの鉄筋からつながっていますので強度も十分に確保されているはずです。
本来・・・というか、「お墓は囲いであっても石!」って考えは根強いと思います。だがしかし・・・ですよ。よくよく考えればその石はモルタルを介して置いているだけ・・・ともいえるわけです。また基礎コンクリートと石材をL字金具で止めても理屈は同じ。であるなら、鉄筋が入っているコンクリート製の囲いなら丈夫さは・・・?またこの広さは住宅にも匹敵するサイズ感ですので、費用と強度を考えればコスパは高いと考えます。またそのブロックは表面に露出していませんから、風化のスピードはかなりゆっくりだともいえます。
以上検証してみました。このほかに散りばめた「河野石材店だからできること」
①石扉開閉式の灯籠火入れ口(弊社特許製品)

内部にはロウソク立てと線香着火具を装備していますから、ここでお線香の着火ができます。高さもちょうど良し。

②石塔の全面磨き直し

この石は福島県産の浮金牡丹という黒御影石。昭和40年代建立のこの石塔は50年という月日の間に黒色が紫外線によって褪め、風雨によって水垢の蓄積が認められました。よって建立当時の輝きを復活させるべく自社工場で磨きなおしました。
ビフォー

アフター


新品当時の色味と艶の復活です。

実を言えば、「磨きヲタク」の私は以前からこの石を磨いて見たかったんですw石と言っても色々あるわけで、国産材・外国材と産出国も色味も様々。またその硬さもその石独特なもの。それぞれの石の個性に見合った「磨き方」があるわけですが、この石は特に「技量が試される石」でありました。詳しくは割愛しますが、一言でいえば「楽しませてくれた石」。良い経験でした。また設計および施工全般に楽しい現場でした。
そんなこんなでお盆前に滑り込みセーフの完成。お施主様におかれましてはだいぶヒヤヒヤされたことと思います。別に余裕こいていたわけではないんですが、予想外の機械ものの不調はどうにもなりませんね。そんな中であっても待ち続けていただいたお施主様には感謝しかございません。
この度はご依頼いただきありがとうございました。

画像はある日の夕陽と追いかけっこの図。この日以外もすべて完敗です(笑)そいうえば近所の盆踊りの音色に癒されながら仕事してたな~・・・遠い目・・・。

